水の鍵
毎日は絶対に無理なので、せめて毎週更新はしていこうと思います! 更新は不定期ですが、大体休日。心優しい皆様はお付き合いくださいっ☆&リンクもコメントも大募集中!
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三階の裏表①
301  米川 勝

『誰かの成功の裏には誰かの失敗がある。而して、誰かの幸福の裏には誰かの不幸がある。僕はその〈裏〉を知りたくてこの仕事に就いた訳だが、僕は僕自身の〈裏〉
だけは知り得ない。それは、第三者たる読者諸君(きみたち)だけが
知り得る特権なのだ。……』
 数時間前から、カーソルは最後の句点の下で点滅したまま動かない。偉そうな書き出しで始めたはいいが、それに見合うだけのストーリーが思い浮かばないのだ。
 ……いや、自分では思い浮かんでいたつもりだった。つい数時間前、トリックに関する全面ボツが出るまでは。
「今時ドアプレートの入れ替えトリックなんて素人でもやらないって? 分かってるんだよ、そんなことは……いかに手垢のついたトリックで面白く魅せるか、それが推理小説の醍醐味なんじゃないのか?」
 ブツクサ独りごちても仕方がない。灰色の脳細胞など持っていない自分には、いくら追い詰められても画期的なトリックなど思いつけそうにもなかった。
 しかし、時間は無情である。先程新人の編集者から、家に向かっていると連絡が入った。何もない状態でも、あと数分もしない内に、彼は原稿を取りに来てしまう。
 いっそ逃げてしまおうかとも考えたが、残された時間
の猶予がそれを許さない。そもそも編集者(ヤツら)は、私の小説
に登場する探偵などより遥かに名探偵だ。私の交友関係や行きそうな場所は全て把握し、地の果てまで追ってくる連中を相手に、犯罪素人の私が逃げ切れる訳がない。
 ……いや、待てよ。ならば逆に、向こうを遠ざければいいんじゃないか?
 私の頭に名案が閃いた。
ドアプレートの入れ替えトリックだ。
 私は素早く玄関を出ると、人目がないことを確認して、三階四部屋全てのドアプレートを並び替えた。即ち、我がボロアパートでは階段側から順に番号が振られているのだが、それを逆順にしてやったのだ。これで私の部屋は一番遠くの部屋に見え、初めて来る新人の編集では、すぐには番号の改変に気付けまい。表札は手書きでプレートと一体になっているため、こちらも問題ナシだ。
自分たちがボツにしたトリックのネタで、精々吠え面をかくがいいさ。
犯罪者のスリルを楽しむように、私は口角を上げてニヤリとした笑みを口元に浮かべた。

→続き
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水の鍵にお越し下さり、ありがとうございます♪
ここでは当管理人の花(かざはな)が、好き勝手に書き綴った小説を趣味全開で公開しています。
お暇な方、心優しい方、少しでも興味をもたれた方は、どうぞゆっくりしていって下さいね☆


☆★連載・長編★☆ …花の作品をガッツリ読んでみたい!!という貴方に。

『カルマラ実録記』 (完結)
魔法界「スヴァーラ」から人間界「カルマラ」へ派遣されてきた魔法少女。
彼女を待ち受けていたのは、自分の価値観を覆す「特別」な人間たちだった。
少女の視点から描かれる、「カルマラ」の集合ストーリー。

『十人十色+一』 (現在連載中)
アイツが何かカッコイイ!?昔はまともな子だったのです。
後に都市伝説となる彼が、いかに今の彼へと到ったのか。
知る人ぞ知る、代行屋の誕生秘話。

 その他、完結した過去の長編物語はこちらから☆

☆★読み切り・短編★☆ …花の作品をちょっと味見したい、という貴方に。~5分程で読めるもの。

『翻訳』
 直接的に伝えなくても、察する気持ちがあれば十分。

『夏の思い出』
 作者の思い出…という訳ではないです。文学チックなお話。

 その他、まだまだたっぷりある過去の短編物語はこちらから☆

☆★読み切り・中編★☆ …花の作品をもうちょっと読みたい!という貴方に。~10分程で読めるもの。

『代役屋』
 代わりに、なんておこがましい。何故だかタイトルが誰かに似てますね。

『完全管理都市計画』
 自由至上主義に贈る、私なりのアンチテーゼ。

 その他、まだまだ存分にある過去の中編物語はこちらから☆

☆★その他★☆ …個人としての花に興味が湧いた、という貴方に。

日記・呟き事・小説メモ・愚痴・バトン・etc。
 時々ふっと更新します。つまり、小説以外のゴタゴタ事。
 
三階の裏表②
302  粟井 洋平

死ぬしかない、と結論を出してから一時間が過ぎた。
 見上げれば梁から吊るしたロープが揺れている。見ているとそのまま眠りに落ちそうな動きだけど、僕が今から落ちるのは、目覚めることのない永遠の眠りだった。
 死ぬしかない。結論に到るまでは早かったけれど、いざ実行しようとすると、途端に怖くなって躊躇った。本当は死にたくなんかないのだ。
 だけど、もうどうしようもない……。
 僕は目の前に置かれた紙を開き、もう何度目になるか分からない確認を繰り返す。借用書と書かれた薄い紙の保証人の欄には、紛う方なく僕の名前が記されていた。
 額にして、三百万円。世間一般では大した額ではないのかも知れないけれど、一介の学生の身としては絶望的な金額だ。また、無理をすれば都合のつかない額ではないという所が更に悪かった。両親を早くに亡くした僕は父方の祖父母に育てられたが、彼らは本当のお人好しなので、僕が困っていると知れば、家を売ってでも都合をつけてくれるだろうことは目に見えていたからだ。今まで散々お世話になっておいて、年金暮らしの彼らにそんなことはさせられない。
 そもそもは、人を見る目が無かった僕が悪いのだ。僕が死ぬことで彼らは悲しむだろうけれど、生きてこれからかける迷惑に比べればマシだと思う。貸主が典型的な闇金融の会社なので、下手をすれば余生分の財産まで身包み剥がされるかもしれないのだ。元々借りたのは友人なので、僕が死ねば彼らには被害は及ばない筈だ。
 今まで散々確認してきた事柄を逡巡しながら、僕は覚悟を決めてゴクリと生唾を飲み込んだ。台代わりになるものを探して、手近にあった好きだった推理小説の雑誌を積み重ねる。上に立つと、死が目の前にぶら下がっているという恐怖よりも、本を踏んでいるという背徳感の方が先に立って、何だか可笑しかった。
 ロープに手をかけ、頭を入れて、重心を前に傾ける。細くやんわりと首に圧迫感を感じて、ようやくボンヤリとした頭に強烈な現実感が圧し掛かり、踏み出しかけた足が思わず止まった。
 本当にいいのか? もう後戻りは出来ないぞ?
 冷静な悪魔が囁いて、僕の中にまた不安が擡げてくる。
首吊りはすぐに死ねる訳じゃない、きっと苦しいんだろうな……顔もむくんで酷いことになるって言うし、失禁もしてしまって見るに耐えない状況になるって聞いた。最後の最後にそれは嫌だな……今からでも別の方法に切り替えようか?
 いや、ここで止めたら僕はきっと自殺する気をなくしてしまうだろう。こういうのは勢いが大事だ、あともう一歩踏み出すだけじゃないか。どうせどんな死に方しても最後は汚いものなんだ、ここまで来て止めてどうする。
 でも、じゃあせめてこうやって思い留まることがないように、一息で一気に死ねる方法に変えようか? しかしどういう死に方にしても、結局最後の一歩を踏み出す瞬間は来る訳で、だったらここで死ぬのが一番……
 巡る思いは二転三転しながらも同じ所で足踏みを続け、本当に最後の最後まで優柔不断で、自分でもどうしようもないなと笑えてしまう。こんな僕だから、あっさり友人に騙されて死ぬ羽目に陥ってしまっているのだろうが。
 ……もういいか。今までありがとう。さようなら。
 ようやく諦めともつかない踏ん切りをつけ、宙に身体を投げ出そうとしたまさにその時、何というタイミングの悪さだろうか、玄関の間抜けなチャイムが鳴った。
 勢いを殺がれて、僕は大きく息を吐いて本から降りた。無視してしまうべきだったのだろうけれど、死ぬ間際に心残りを残してしまうのはやっぱり嫌だ。
「はい、どちら様ですか?」
 インターホンなんて高級な物はないので、当然ドアを開ける。と同時に、僕の視界は反転した。
「ヨウちゃん! 会いたかった!」
 言いながら、飛び込んできたのはブランド物の香り。それにいきなり抱きつかれて、僕は床に仰向けに押し倒されたのだ。
「……どちら様ですか?」
 目を白黒させながら訊くと、彼女は上気させた頬を赤らめながら言った。
「あ、ゴメンね、私ったら。ヨウちゃんに会えたのが嬉しくって。私、アヤコよ」
 アヤコ、アヤコ……僕は必死に自分の記憶を手繰ってみたが、生憎全く思い出せない。僕のことをヨウちゃんなんて親しげに呼ぶ女性がいただろうか?
「ずっとずっと、会いたいと思ってた……私もう、ヨウちゃん無しじゃ生きていけないの」
 しかし、潤んだ瞳で僕を見つめる彼女に向かって、記憶に無いとはまさか言えない。『ずっと会いたいと思ってた』ということは、かなり昔の知り合いだろうか?
 と、曖昧に微笑みを返しながら推察を巡らせていると、続けて彼女は驚くべきことを言った。
「だから、お願いだから死ぬなんて言わないで。お金なら私が何とかするから……貯金を下ろせば三百万ぐらいにはなるから。私と一緒に生きて、お願い!」
「!? どうしてその事を知って……?」
「? 友達に騙されたって言ってたじゃない。ヨウちゃん優しいから……私、陰でずっと心配してたのよ?」
 勿論、僕は誰にも借金や自殺のことなんて話していない。独り言ぐらいは言ったかも知れないけど……まさか。
 まさか彼女……ストーカー、とかいう奴なのか?
 自分にそんな魅力があるとは思えないが、それぐらいしか考えられない。それなら僕の記憶にないのも頷ける。
……しかし、もしそうだったとしても。はたまた、ただの運命のイタズラだったにしても。
「……分かったよ、考え直してみる。試しに君と生きてみるのも……悪くないかも知れない」
 別に、金に釣られた訳じゃない。ここまで真っ直ぐに好意を向けられて、それを無視出来るほど僕は強い人間じゃないのだ。
 出会いは突然に、と言うけれど、本当に何だか彼女のことが好きになってしまうような気がした。

→続き


プロフィール

花(かざはな)

Author:花(かざはな)
不健康優良児を自覚する、心配性の楽天家。暇があれば趣味の小説をちまちま書いている。
座右の銘は『他力本願』。

*当ブログ掲載の小説関連の権利は、全て花に帰属します。
*記事に関係のないコメント・宣伝は、削除させて頂きます。



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